MLB(メジャーリーグベースボール)を日本で観戦していると、バックネット裏や外野フェンスに日本企業の広告が映っていることがあります。
もちろん、アメリカには日本の会社がたくさん進出しているので日本の企業が広告を出していても不思議ではありません。
ですが、その広告が日本語で映っていることに違和感を覚えませんか?
調べてみると、実はこれ、放送用に後から合成されている「バーチャル広告」なんだそう。
バーチャル広告とは何か
バーチャル広告(Virtual Advertising)は、放送映像にCGを合成して表示する広告手法です。
スポーツ中継においては、スタジアムやアリーナの壁、フィールドの一部に リアルタイムでCG広告を配置 することで、視聴者がまるで現地に存在するかのように感じられる仕組みになっています。
近年では、MLBを含む主要スポーツリーグで一般的に採用されており、国や地域ごとに異なる広告を配信することが可能です。
例えば、以下のは同じ試合の同じシーンのスクショですが、上はバッターの後ろには日本向けの広告が表示されていて、漢字やカタカナが見えます。

ですが下の画像ではバドワイザーのアメリカ向けの広告に変わっていますね。
これは、同じ瞬間を映した映像ですがこのように放送先の地域別に広告の表示を変えているのです

合成の仕組み
広告が自然に見えるようにするためには、以下の技術が使われているようです。
1. トラッキング技術
中継カメラの位置、角度、ズーム量をリアルタイムで検出し、広告の表示を合わせます。
これにより、カメラがパン(左右移動)、チルト(上下移動)、ズームを行っても、広告が正しい位置に固定されて見えます。
2. キーポイント認識
外野フェンスやバックネットといった「合成対象となる領域」にマーカーや特徴点を設定し、そこに合わせて広告を貼り付けます。AI画像認識を使う場合もあり、背景の揺らぎや観客の動きを考慮しながら自然に表示されます。
3. レンダリング技術
広告は単なる「平面合成」ではなく、スタジアムの陰影や照明に合わせてリアルタイムに描画されます。これにより、日中・夜間・天候の違いに応じて自然に馴染むようになります。
4. リージョン別配信
放送信号の段階で複数のバージョンを用意し、日本向けには日本企業、アメリカ国内向けには現地スポンサー、中南米向け、台湾や韓国向けには、、、といった切り替えを行います。
近年はクラウドベースでの配信管理が進み、複数地域への同時展開も効率化しています。
なぜ日本放送で合成されるのか
MLBの放映権は莫大な金額が動くビジネスです。その一部を支えるのが広告収入であり、放送地域に適した広告を表示することはスポンサーにとって大きな価値があります。
- アメリカの保険会社やファストフードの広告は、日本人には訴求しにくい
- 日本企業が「日本国内の放送枠」にスポンサー料を払っている
- 視聴者にとっても、馴染みのある企業の広告の方が親近感を持てる
この三者の利害が一致しているため、日本向け中継では広告が差し替えられているのです。
技術がもたらす新しい広告の形
バーチャル広告は今後さらに進化していきます。
- AIによる個別最適化広告
将来的には、同じ映像を見ていても、視聴者の居住地や趣味嗜好に応じて異なる広告が表示される可能性があります。 - AR/VRとの連携
VRゴーグルで試合を観戦した場合、視線の動きに合わせて最適な位置に広告を表示する技術がすでに研究されています。 - 収益構造の変化
放送局やリーグが地域ごとに追加収益を得やすくなり、スポーツビジネス全体の資金循環が強化されると考えられます。
まとめ
MLB中継で日本企業の広告が映っているのは、実際にスタジアムにあるわけではなく、放送用に合成されたバーチャル広告です。
その背景には、カメラトラッキング、リアルタイムレンダリング、リージョン配信などの先進技術が使われています。
表向きは「自然な広告表示」ですが、裏側には最新の映像処理技術と巨大な広告ビジネスが動いています。次にMLB中継を見るときは、ぜひ広告の違いにも注目してみてください。
コメント